『幸福な食卓』(瀬尾まいこ)を読んだ

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僕はすぐに影響される。

家族や友達、同僚や恋人。彼ら/彼女らに「これお勧めだよ」と言われると、高い確率で購入・訪問する。人がこだわる小さな芽に触れてみたいと、無意識的に思っているのかもしれない。

瀬尾まいこ『幸福な食卓』も、そんな些細な紹介がきっかけで読むことになったものだ。2年前に好きだった人が教えてくれた本作は、恋が実らなかったこともあり、僕の中でほろ苦い思い出として残っている。(ちなみに彼女が好きだったのは小説でなく、原作を元に作られた映画だったというオチもあります)

***

ここまで、完全に蛇足でした。

さて、本題。

  • 父を辞めると宣言した父、
  • 家出中なのに料理を届けに来る母、
  • 元天才児で、農業を営む団体で働いている兄、
  • のんびりしていて、家族や友達に愛される主人公・佐和子。
  • 文字にするとイロモノ家族なのだが、瀬尾の文体の柔らかさが、登場人物にリアリティを与えている。台詞は何だか非現実なんだけど、「ああ、こういう不思議な雰囲気の家族もあるかもね」という現実感。物語全体を包み込むトーンが、とても心地良い。ひらがなが多いのか、難しい言葉遣いを避けているのか、台詞と地の文のバランスなのか。

    ただの「ゆるふわ」トーンであれば、新人賞も取れないし、映画化だってされないだろう。

    時々、鋭利に心を抉るような描写とのギャップが、本作の魅力だろう。

    例えば父が自殺を試みた回想シーンの描写。

    私たちの日常は今までと同じように見えた。だけど、小さな変化は確実にあった。母さんは毎日一心不乱に風呂場を洗った。それだけが自分に与えられた仕事であるかのように、力を込めてタイルをこすった。毎日毎日長い時間をかけて風呂場を洗い続けた。そして父さんといることに、緊張していた。父さんと並ぶと息苦しそうにしていた。思い詰めた顔をした。誰も何も言わないのに、突然、父さんに謝ったりした。私が救急車を呼ぶべきだったのにと泣き出すこともあった。

    余白があるような「ゆるふわ」なトーンから一転、文体は簡潔になり、無駄な文字が一切なくなる。句読点でトーンとリズムを整える。感情を示す文は最後にあるけれど、父や兄や佐和子の複雑な思いが滲み出ているようだ。

    こういう文章は、なかなか書けないと思う。

    2011年まで中学校で国語教師をされていたとのこと。当然、教科書を中心に指導していたんだと思うけど、なるほど基本に忠実だなって思った。他の作品を読んだことはないけれど、タイトルから察するにトーンは似通っていそう。これはあくまで、推測。

    あとは出てくる料理の描写の上手さかな。女性作家って、料理の描写が上手い。読んでいてお腹がグーっと鳴るのです。

    http://www.youtube.com/watch?v=n2trbWlziZU

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